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「おい、。」
「あれ?三蔵、どうしたの?」
珍しく2年の教室にやってきたのは、ひとつ上の学年でこの学校の生徒会長でもある幼馴染の三蔵。
次の時間に提出するはずの英語の課題を友達に写させてもらっていた手を止め、廊下側の窓から身を乗り出すと無言で目の前にある物を差し出された。
それは三蔵の手には不似合いな可愛い動物の絵が入ったバンダナに包まれたお弁当箱。
「・・・あれ?」
おかしいなぁ今日は部活の朝練があって、でも寝坊しちゃって・・・あわててトーストを咥えて家を出て・・・何て事を考えながら、三蔵の方へ手を伸ばして取り敢えずお弁当箱を受け取る。そしてそのままポンと乗せられたお弁当と三蔵の顔を交互に眺めながらポツリと呟いた。
「あたし、忘れてた?」
ゆっくり顔をあげて目の前の幼馴染の顔を見れば、秀麗な顔はそのままに眉間の皺だけいつもの2割増。
そしてさっき迄お弁当を持っていた手には何処から取り出したか分からないハリセンが握られていた。
「忘れてた・・・じゃねぇだろう!こっの馬鹿が!!」
バシ――――――ン っと言う音が廊下中、いや教室中に響いたけど今やあたしのクラスでは日常茶飯事となっているので誰も慌てやしない。
最初は皆色々な反応をしてたんだけど、三蔵のひと睨みが怖いのか最近は男子も女子も無視しているような気がする。
「・・・っつー・・・」
「いつまでもガキみたいに忘れ物してんじゃねぇ!」
叩かれた頭を押さえながら痛みに零れそうになる涙を必死に堪える。
三蔵っていつもいつもいつもいつも本当に手加減しないよね。
小さい時からあたしが何かやると、何処からともなくハリセン取り出してバシバシ叩いてさ!一応女だって事、わかってる?
「もーどうして女の子の頭そんなにポンポン叩くのよ!」
「あ?」
「あたしだって一応 女 子 高 生 なんだよ?」
「・・・だから何だ。」
あたしよりも断然背の高い三蔵が椅子に座ってるあたしの事を物凄く不機嫌そうに上から見下ろすその態度が何だか悔しくて、勢い良く椅子から立ち上がるとおもむろにその上に立った。
「あんまりポンポン叩かないで!」
珍しい構図。いつも見下ろされてばっかりだからちょっと新鮮。
勝ち誇ったような顔をしているあたしとは対照的に、三蔵は大げさとも思えるほど大きなため息をついたと思ったらそのまま無言で廊下を歩いて行ってしまった。
「あ、あれ!?」
きっと何か突っ込みを入れてくれるだろうと思ってたからちょっと拍子抜け。
それがちょっと寂しくて、思わず廊下の窓枠に足を掛けて三蔵の後姿に声を掛ける。
「さ、三蔵?」
一度声を掛けたけど振り向いてくれない。
くぅー!いくら機嫌悪いからって無視する事無いじゃん。
「三蔵!」
今度はさっきよりちょっと大きな声。
すると三蔵が足を止めたので、その背中に向けて届けてくれたお弁当箱のお礼を言う。
「あっ・・・アリガト三蔵!」
それに応えたのは、軽くあげられた右手。
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